中央労福協

 

 

本当に使えるの?「新たなセーフティネット」

相談窓口の一本化などを求め「生活底上げ会議」が集会

 

会場


  雇用保険と生活保護の間をつなぐ「新たなセーフティネット」が10月以降本格化するのを前に、中央労福協や市民団体・法律家・研究者などで構成する「生活底上げ会議」は9月17日、東京・星陵会館で新制度の問題点を探る集会を開催し、約230名が参加した(写真上)。

失業と同時に住まいを失った非正規労働者への支援として、すでに昨年末から始まっている就職安定資金融資に加え、本年8月からは、ハローワークを窓口に職業訓練期間中の生活費を月10〜12万円を給付し、労金が5〜8万円の上乗せ貸付を行う制度がスタート。さらに10月からは福祉事務所を窓口とした住宅手当、社会福祉協議会を窓口とした総合支援融資、つなぎ資金融資などが創設される。
 主催者を代表して挨拶をした宇都宮健児弁護士は、新制度を評価しつつ「管轄する役所や部署が違い、スムーズに機能するのか。本来、生活保護が受けられる人が受給できないことがあっては本末転倒だ」と懸念を示した。
 集会には国会議員も多数参加。各党を代表して、民主党・大河原雅子(参)、自民党・後藤田正純(衆)、公明党・谷合正明(参)、共産党・小池晃(参)、社民党・近藤正道(参)、国民新党・亀井郁夫(参)、みんなの党・山内康一(衆)の各氏より挨拶を受けた。

コントたらい回しの情景をコントで表現
 

制度の分かりづらさや相談者がたらい回しになっていく状況をイメージするため、杉笑太郎&M2によるコントを上演。最後のオチでは、非正規雇用で失業した人をサポートする相談窓口の職員も非正規という現状を痛烈に印象づけた(写真右)。

シンポジウム(使いやすい制度を目指して)

後半のシンポジウムでは、制度を運用する現場から見た問題点を探り、利用者にとって本当に使いやすい制度にするにはどうすればいいのか論議を行った。
 自治労社会福祉評議会の秋野純一事務局長(写真@)は「つなぎ資金が支給されるまで早くて1週間」との例をあげ、「現場に権限を集中させるべき」と訴えた。労金協会の鹿島健次企画担当部長は、就職できたら返済免除するという制度の矛盾や相談窓口のワンストップ対応の必要性を語った。全労働の河村直樹副委員長(同A)は、職業訓練の偏在やミスマッチなどの問題を指摘。生活保護問題対策全国会議の尾藤廣喜代表幹事(同Bシンポジウム)は「既存の制度の切り張りでなく、新しい制度設計が必要だ」と述べ、雇用政策全体を充実させる必要性も強調した。こうした指摘に対し、厚労省の中井雅之・労働政策担当参事官室企画官(同C)は「丁寧に現状を把握し、改善に取り組みたい」と述べ、ハローワークの相談体制を充実・強化する考えを明らかにした。コーディネーターを務めた新里宏二弁護士は「制度を使い切った上で、注文もつけて改善していこう」と締めくくった。
 最後に、制度の広報周知、相談窓口の一本化、恒久的施策にするための検討機関の設置などを求めていく集会宣言を採択。中央労福協の笹森会長が「私たちが声をあげ行動することで世論が動き、政治が変わった。働くことは生きること。その根本が破壊された日本社会を変えていこう!」と訴え閉会した。

生存権保障の底上げにつながる「新たなセーフティネット」を求める集会宣言

緊急の「経済危機対策」として構築された「新たなセーフティネット」が、本年10月から本格実施される。雇用保険と生活保護の間に「新たなセーフティネット」を新設しようという試みは、脆弱だったわが国のセーフティネットの充実のために歓迎すべきことである。

既に昨年末から始まっている「就職安定資金融資」に加え、本年7月からは「緊急人材育成・就職支援基金」が新設された。雇用保険を受けられない人にも、職業訓練を受講する場合には月10〜12万円を給付し、また5〜8万円の上乗せ貸付も行う制度だ。しかし、新政権下で天下り機関への補助金を理由とした「凍結」が取り沙汰されている他、周知不足で利用者も十分に増えていない。戦後最高の失業率を記録し、諸外国に比べてはるかに雇用保険カバー率の低い日本において、本来大いに活用されるべきであるにもかかわらず、現実はそうなっていない。

新設される「住宅手当」は、福祉事務所を窓口とし、2年以内に離職した者に対し生活保護の住宅扶助費と同額の住宅手当を給付する。従前から社会福祉協議会を窓口として実施されてきた「生活福祉資金」の抜本的見直しに伴い、月20万円までの生活費や敷金等の住宅入居費等を貸し付ける「総合支援資金」や、公的給付・貸付制度の申請をしている住居のない離職者に対し当面の生活費を10万円まで貸し付ける「臨時特例つなぎ資金」も創設される。

しかし、各制度は窓口がバラバラなうえ給付と貸付が複雑に入り混じっていて、「間に合わせのつぎはぎ」である感は否めない。3年間の時限措置とされているため権利性は保障されておらず、既存の生活保護制度との守備範囲も不明確である。新制度の創設によって生活保護の利用が不当に抑制され、生活保護水準以下の新制度の利用へ誘導される事態を回避すべきことは当然である。

私たちは、新制度が生活保護によって既に保障されている生存権保障の水準を掘り崩すものではなく、それを「底上げ」するものとなるよう、国に対し、次の諸事項を求める。

 

1 利用者の視点に立って、使いやすい「第二のセーフティネット」を構築し直し、十分な広報周知を図り、生活の下支え機能を果たすこと

2 雇用保険制度を大幅に拡充すること

3 新制度の創設によって生活保護制度の利用が不当に抑制され,生活保護水準以下の新制度しか利用できない事態が生じることは厳に回避すること

4 最低生活費以下の収入しかない者に対する施策は貸付でなく給付を中心とする方向に改善すること

5 給付制度の権利性を明確にし,利用要件を生活保護よりも緩和すること

6 相談窓口の一本化,人員体制の充実等によって「タライ回し」を避け利用しやすい制度とすること

7 現場の実情を反映させた運用改善を繰り返しながら,恒久的施策としていくための検討機関を設置すること

 

2009年9月17日 集会参加者一同

 

弁護士会の参画状況 司法書士会の参画状況 被害者の会の参画状況 地方労福協の参画状況 佐賀県 山形県 宮城県 福島県 長野県 愛知県 広島県 愛媛県 香川県 高知県 福岡県 長崎県 秋田県 群馬県 鳥取県 徳島県 栃木県 神奈川県 静岡県 岐阜県 滋賀県 埼玉県 岡山県 茨城県 島根県 熊本県 鹿児島県 宮崎県 大阪府 東京都 千葉県 山口県 京都府 兵庫県 北海道 三重県 青森県 石川県 奈良県 大分県 岩手県 新潟県 福井県 和歌山県 沖縄県