21世紀政策研究所(日本経団連)・第50回シンポジウムで
菅井事務局長が公益法人課税について所見を述べた。

 私ども中央労福協が設立されたのは1949年、昭和24年であります。当時の労働組合団体がそれぞれの枠組みを超えてつくった組織です。いわゆる戦後の混乱期でありまして、食糧事情なども悪かったものですから、当時の運動の中心は、とりわけ労働者へのいろいろな物資供給を求めていくということでした。特に工場などでは、生産増強のための加配米の増量要求とか、あるいはまた、作業着の支給要求などをやっておりました。当時、現在の日本生協連の前身である生活協同組合なども参加をしておりました。その後、中央労福協を中心にして、労働金庫、全労済などの事業も立ち上げていく、こういう経過をたどっております。
 今日、連合をはじめとする労働組合団体、日本生協連、労働金庫、全労済、その他いくつかの事業団体で構成しております。
 中央労福協は東京にあり、これも単独で設立をしております。すべての都道府県に1つずつ、私どもで地方労福協と呼んでおります地方の労働者福祉協議会があります。また、地域別にもございますが、これら(中央労福協と地方労福協)は上下関係ではなくて、必要に応じて各地で設立されたものです。それぞれあくまで労働者福祉を事業目的とした団体で、労働運動を直接やっているところではありません。

 現在、私どもが大きな事業活動として取り組んでおりますのは、労福協、連合、労働金庫、全労済などが中心になって、地域を拠点にした勤労者の暮らしをあらゆる面からサポートし、いろんな相談事に対応していくという活動です。全国の労福協の中で、23ほどが法人格を持っています。3つが財団、20が社団です。そうした事情から、公益法人制度改革とこれに絡む税制改正の問題、私どもも非常に強い関心を持っております。
 先日、日本経団連から連合に対し、労働組合代表、労働者代表ということで本日の討議に参加してほしいという要請があったようですが、連合としては、公益法人の内容についてまだあまり深く論議をしていないので、ぜひ中央労福協で対応してほしいということで、本日参加させていただくことになりました。

 さて、朝長先生からお話を伺い、提言を読ませていただいて、まさに我が意を得たりという感じがいたしました。提言に記載されている内容につきましては、おおむね同感というところです。なぜ「おおむね」なのかといいますと、後のほうの、いわゆる「組合」と「中小法人」関係のところ、これらについて私どもは深く議論したことがございませんので、理解が不足しております。そのほかの部分については、すべて、同感ということで、おおむね同感といたしました。
 とりわけ、今日の非営利事業体の公益活動に係る問題点の指摘につきましては、私ども中央労福協も全く同様の考え方であります。その上に立って、次のとおり所見を述べさせていただきます。

 1つは、公益法人に対する課税のあり方についてであります。ご案内のとおり、政府税調の考え方は、現行と同じような形で「公益法人に対する法人税は非課税、収益事業には課税」ということのようであります。その場合の税率につきましても、現行制度では軽減税率が適用されているわけでありますが、収益事業課税の趣旨に照らせば、できる限り営利法人の基本税率との格差を縮小し、営利法人と同等の税率とすることを目指すべきだというのが政府税調の大勢のようであります。これに対して、21世紀政策研究所の報告書は、所得課税としての法人税のあり方として、営利事業を行う事業体の所得に課税をすることとして、現在の「非営利事業体に対する収益課税制度は廃止すべき」という提言であります。

 その理由として、繰り返し述べられていることではありますが、非営利活動の拡大・促進と自己の事業による安定した経済基盤の確立の重要性を指摘されております。私ども中央労福協の主張も同様であります。公益法人が行う収益事業については、あくまでも、「原則非課税・例外課税」であるべきだと考えております。このあたりの内容について、連合は「政策制度要求と提言」というまとめの中で、「公益社団・公益財団法人の本来事業における会費、寄附金、利子・配当収入は非課税とし、収益事業から本体事業へのみなし寄附金の損金算入割合を拡充すべき」だとして、トータルでくくっております。
 特に、私ども中央労福協として、この“みなし寄附金”についての考え方を述べさせていただくとすれば、公益目的の事業資金としての収益事業からの繰り入れを営利法人の損金算入と同等に議論することは、いささかナンセンスだと申し上げざるを得ない、同等に議論すべきではないと考えております。

 いうまでもなく、国民の暮らしや福祉をよくしていくことは政治の責任であり、行政サービスの基本であります。しかし、それがいま極めて不十分・不安定な状況にあり、加えて、これから高齢化社会を展望する中で、将来の見通しも不透明だということであるならば、私たちは多様な共助を拡大していくことが重要だということは、先ほど来、お話のあったところであります。
 これまで、公益的事業や活動を行うための財源は、お互いが持ち寄る会費か寄附金、あるいはまた国、自治体などからの補助金や助成金であったりということが多かったわけであります。また、労務については、いわゆるボランティアという形で処理され、そうしたことがさも基本であるかのような形であったと思います。しかし、国民自らの手による“新しい公共”として、安定・充実した公益的な事業や活動を持続的に行っていくためには、自らの事業が生み出す利益によって、安定的な経済基盤をつくって行くということが極めて大切なことではないでしょうか。公益事業活動の源泉となる、そうした事業収益に対しては課税免除が当然でありますし、「基本税率との格差解消」などということはまさに論外だと申し上げざるを得ません。
 もとより、先ほどもご指摘がございましたけれども、例えば、高額な役員報酬などによる利益分配や租税回避の問題などについては、厳しく監視するための措置を講じるのは当然のことであります。

 一般社団、一般財団法人の関係については、「共益的法人に関する会費については免税。共益的法人その他の所得、及び公益でも共益でもない法人については営利法人と同様に課税する」というのが政府税調の考えのようであります。その理由として、(一般社団・一般財団法人は)利益配分を目的としていないものの、実質的に給与やフリンジベネフィットという形で利益配分をしたり、解散時に残余財産の帰属という方法によって、利益を分配したりすることが可能だ。だから、このような法人の特性や実態等を踏まえれば、非営利法人、営利法人という法人形態の選択に対して中立的になるように、また、租税回避としての乱用を防止するためだと述べています。もっともらしく聞こえますが、これに対して、21世紀政策研究所の提言は「一般社団・一般財団法人は、公益社団・公益財団法人のように、非営利性が確実に担保されているわけではないものの、剰余金または残余財産の分配を行うことができないとされており、非営利事業体であるという点で株式会社等とは根本的に異なっているため、この両者の相違点を無視して株式会社等と同じ取り扱いとすることは適当でないと考える」と述べております。この点についても私は全く同感であります。

 それから、公益活動に対する寄附の問題であります。公益活動を行う非営利事業体に対する寄附について、「全額を損金に算入することとすべき」とする今回の提言を支持いたします。わが国には、いわゆる“ノーブレス・オブリージュ”とか“チャリティー”といったような、いわゆる「金持ちが社会のために金を使う」といった思想や土壌が非常に乏しいようであります。「税という強制力」によるのではなく、企業や個人の自発的な思想、あるいはまた風土として、利益を広く社会に還元、再分配することを促す意味で、公益活動に対する寄附を行いやすくしていくための公的措置(社会的な教育や世論作りを含む)が重要だと考えております。

以  上

第50回シンポジウム
「税制抜本改革に向けて―非営利団体、組合、中小企業に関する税制の立法提案」の概要

<2007年7月4日(水)14:00〜16:00 於 経団連会館 12階 ダイアモンド・ルーム>
1. 来賓講演
  自由民主党幹事長代理  石原伸晃
2. 説明「新たな事業体税制(法人税関係)のあり方」
  21世紀政策研究所研究主幹 (企業税制研究所代表理事)  朝長英樹
3. 討論・質疑応答
  コメンテーター:公益法人協会副理事長  宮川守久
            労働者福祉中央協議会事務局長  菅井義夫
            日本経団連常務理事  久保田政一

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